〉人種差別的な職務の改善を求める署名に賛同ください

文化の盗用|前編:BTSと文化の盗用と黒人文化

前編:BTSと文化の盗用と黒人文化

「文化の盗用」について色んな記事や事例を読んでも、次から次に疑問が湧いてきていまいち理解できない、という方は多いです。そこで、私が理解を深めるにあたってわかりやすかったアプローチや事例を混ぜながら、また、よく頂く質問を記事で解説しながら、丁寧に説明します。

前編・後編と通して読めば「文化の盗用」への理解が一気に進みます

こんにちは、Naomiです。

今日は、どうしても日本の皆さんに知って欲しい「文化の盗用」問題について書きます。「文化の盗用」は、アメリカでは時間をかけてだいぶ広く認識されてきていますが、日本ではまだあまり馴染みがなく、なかなか理解されにくい概念で、私たちも説明するたびに強い反感を買ってしまったり、SNSで取り上げるたびにコメント欄が荒れるので、今までアプローチ方法に悩みながらも、試行錯誤してきました。

ですが、私たちはこの「文化の盗用」が日本で広く理解されるまで何度でも話していこうと思っています。なぜなら私たち全員に関わりのあることですし、「知らない」ままでいることは、他者の文化を「搾取」していることになり、ひいては、その自覚がないという「自分自身の無知」を晒すことになるからです。

先程も書いたように、日本の方々に理解してもらうことが本当に難しいと身を持って感じています。ですがこれまで様々な機会に恵まれ、色んな所で何度も解説してきた経験を生かして、多くの方が疑問に思うところの解説も織り交ぜながら、段階を踏んで説明し、理解を深めていただけるように記事構成を考えました。

[sng_toc_insert]

第1章 はじめに:私とBTS

BTSと文化の盗用と黒人文化
Twitter @bts_bighit

突然ですが、私はBTS(防弾少年団)のARMY(ファン)です。
知らない方のために説明すると、BTSは2013年にデビューし、当初のコンセプトは「防弾少年団」という名前が表すように、若者に向けられた偏見や、社会的抑圧を防ぎ、自分たちの音楽を守り抜くというものでした。人気が世界規模へ拡大するとともに、その時々のキャンペーンを通して、BTSはマイノリティの立場に立って声をあげていくことに率先して取り組んできました。彼らのファンダムが今、世界一大きいのもその様なマイノリティの声を拾い上げ、世界各国の多様な人々に支持されてきたところが大きいと思っています。

私がARMYになったきっかけは、2020年にJapan for Black Livesを発足して、アメリカでの黒人差別の現状を訴えたり、世界各地で活発化しているBlack Lives Matter(ブラックライブズマター:黒人の命も大切だ)運動を追いながら、米大統領選の行方を心配していた頃でした。黒人の方が多い米南部タルサで開かれたトランプ元大統領の集会に、ARMYが大量にカラの参加申込をして、空席を目立たせたことをニュースで知ったときの衝撃といったらなかったです。

私は当時Japan for Black Livesで、「黒人差別は対岸の火事じゃない、日本でこれだけ音楽やダンス、ファッションなどでブラックカルチャーが浸透していて、日常的にその恩恵を受けているのに、いざ黒人の方々が大変な時にダンマリなのは間違っている」ということを日本の人に対して訴えていたのですが、それでも多くの方は、日本には関係のない話だと思ったのか、あるいは「よくわからない腫れ物には触りたくない」と思ったのか、(両方実際に受けたコメントです)、問題に対する関心の低さに正直落胆していました。

そんな中、このタルサの件を知り、こんな活動家みたいなインパクトのあるアクションを起こしたのが、「韓国のアイドルのファンダム」だというから度肝を抜かれたし、そこからBTSやARMYがBlack Lives Matterへ巨額の寄付をしたことや、その他さまざまなアクションを起こし続けていることを知り、気づけば私はBTSを調べまくっていて、今ではすっかり沼入りしています。私は社会問題にちゃんと声を上げる「活動家ARMY」たちのファンでもあるんです。

BTSを知っている方でも、こちらの記事をぜひ是非読んでみてください:

誤解を恐れずに言うと(まぁ誤解ではないのですが)、K-POPは黒人文化を搾取している側面があります。ですが、それはK-POPだけではなく、J-POPもですし、世の中に溢れる世界中のポップミュージックやストリートダンスは、源流を辿るとほとんどブラックカルチャーへ行き着きます。まずはその事実を知り、受け止めることが「文化の盗用」の理解への第一歩であり、それを実践するのはアーティストだけではなく、消費する私たちもです。

言うなれば、消費するすべての人の責任です。誰もが「文化の盗用」について理解を示す状態になることが、私が文化の盗用について話し続けることの最終的な目標ではあるのですが、少なくともはじめの一歩として、ARMYの方々にその部分の理解が備わっていると、「マイノリティや弱者のだれ一人も置き去りにしないファンダム」として、BTSのARMYであることがより誇らしく感じると思ったので、この記事を書こうと思いました。

第2章 文化の盗用の定義

文化の盗用(Cultural Appropriation = カルチュラル・アプロプリエーション)は、このように説明されます。

文化の盗用(Cultural Appropriation

支配的な(または特権的な)立場にあるグループが、マイノリティなど、そうでないグループの文化を搾取すること

支配的な(または特権的な)立場にあるグループというのは、例えば白人。白人は白人というだけで、実は様々な場面で優遇されています。優遇され強者の立場にあるグループのことをマジョリティとも言います。また、「優遇されている」と言っても、特別な待遇を受けているとかそういう意味ではなく、マイノリティの人々が不遇な状況に直面することが多々ある中、その立場からみて「ふつう」とみなされる人たちのことをいいます。マジョリティ・マイノリティという言葉を使いますが、多数派・少数派という意味ではありません。

身近な例だと、私のような「いわゆる大多数の日本人と同じ外見的特徴」を持つ、日本国籍の日本語を話す人が、日本国内ではマジョリティになります。生活していて言葉に困ることもなければ、見た目の違いで異なる待遇を受けることもなく、行政サービスを受けたり、書面での契約作業などもハードルが高いと感じることはありません。これは私にとっては当たり前のことです。

ですが、日本に住む外国籍の方々にとっては簡単ではありません。また、外国にルーツを持つミックス(ハーフ)の方々も見た目だけで外国人扱いされたり、言葉にせずとも「自分と違う」という見えない境界線を引かれて傷ついたり不快な思いをしている方が多くいます。(マイクロアグレッションという言葉でぜひ調べてみてください)
彼らは日本で様々な生きにくさを感じることがありますが、マジョリティにとっては気づきもしない部分だったりします。その「気づかなくても生きていける」ところがまさにマジョリティの持つ特権です。

性別や学歴など・・・「特権性」は様々なレベルで存在します。

第3章 ブラックカルチャーとは

「ブラックカルチャー」とは、黒人が生み出した文化のことです。ここでは主に「音楽」「ダンス」「ヘアスタイル」の3つを挙げていきます。

音楽

私たちが普段聴いている音楽の多くが黒人音楽から生み出されたことはご存知ですか?HIPHOPやゴスペル、R&Bだけだと思っていませんか?ジャズ、ブルース、ソウル、ファンク、レゲェ、ロックンロール、スウィング、GOGO、スカ、ダブ、ディスコ…etc。もっともっとありますが、これらはすべて黒人音楽が発祥です。そしてこれが現代のポップミュージックの基礎です。つまり私たちが今聴いている音楽のほとんどのルーツは黒人の方たちが生み出したものです。「J-POP」とか「K-POP」とかっていうのはずいぶん後に勝手に付けられたカテゴリーで、全てはブラックカルチャーが生み出したものなんですね。

奴隷時代の苦しい農作業中に生まれたプランテーションソングからはじまり、黒人同士の絆や生きることを讃えたゴスペルなどの宗教歌、そして現代では黒人差別や、警察による暴力、不平等な社会に抵抗するHIPHOPへと形を変えながら、ブラックミュージックは常に彼らの生き様を音楽にしてきたんです。

プランテーションソング(映画『それでも夜は明ける』)
ゴスペル(You’re The Lifter)
神への感謝や、黒人自身を励まし称賛するような内容が多い
N.W.A. – Fuck The Police
警察の暴力と黒人への過剰な取締りを訴えるリリック ※差別的表現を含みます
Kendrick Lamar – Alright
差別・貧困・警察の暴力・メンタルヘルスなど様々な状況を嘆きながらも「俺たちは大丈夫さ」というリリック

HIPHOPは世界中で流行っていますよね。そのルーツや成り立ちを学ばず、カッコイイから、流行っているからと言う理由で「HIPHOPっぽい」表層的な部分だけをかすめ取って商業利用したとします。ファンもそのHIPHOPっぽいものを、カッコイイ〜と称賛し、それ以上のこと(歴史や背景)を学ぶチャンスもなくバカ売れしたとします。
文化を生み出した人たちへのリスペクトはないけど、生み出した人たちの文化で金を儲ける、これでは完全に文化の搾取、つまり「文化の盗用」の構図となります。

ダンス

最近は学校の授業にもありますし、習っている方も多いですね。また、みなさんが好きなアーティストやアイドルの振り付けなど、とにかくダンスに触れる機会はとても増えていると思いますが、そのダンスもブラックカルチャーから来ています。例えば、私の親友でJapan for black livesのメンバーでもあるBrooklyn Terryはハウスダンスのオリジネーターの一人です。彼らが作り上げたハウスダンスは、今世界中の人々が当たり前のように踊っていて、メジャーなダンスジャンルの一つです。(BTSのジョングクも最近Instagramでハウスダンスを習っている様子を投稿してましたよね!)

Terryのハウスダンス

日本に、とあるダンスのプロリーグがありますが、公式によると、「ダンス市場の成長性が今後期待される中、日本のストリートダンスの発展と普及を図るとともに(中略)アートとスポーツ、そしてビジネス面での新たな価値を創造し、ダンサーがメインとなる新しい世界を作り上げる」ことを掲げています。ですがそこには、そのダンスカルチャーを生み出した黒人文化を学んだり、リスペクトが感じられるようなコンテンツはなく、黒人ダンサーを審査員など組織の中に起用することもやっていないようでした。

そして出場している方々を見てみると、ブレイズヘア、コーンロウヘア、ロックスヘア(ドレッドヘア)などの「ブラックヘア」をまとっている日本人ダンサーが多く、ダンス演目の中には、西アフリカの伝統的な衣装を身に着け、部族のダンスを演目としてやっているものもありました。日本人がブラックカルチャーであるストリートダンスや、アフリカの民族的なダンスを収益の出る商業的なイベントとして開催する以上、文化に対するリスペクトがなければそれは当然「文化の盗用」の構図になります。

ちなみに私はJapan for Black Livesとしていくつかのルートでこのイベントの主催者や、ダンサーの方へ質問状を添えてコンタクトを取ろうと試みましたが、その全てに対して反応すらありませんでした。

ヘアスタイル

ヘアスタイル。先程も挙げましたが、ブレイズ、コーンロウ、ロックス(ドレッド※)などは「ブラックヘア」と呼ばれます。黒人文化の中で生み出されたヘアスタイルです。今は、黒人以外の人たちにもとても人気なので、やったことがあるという方もいると思います。有名人でやっている方も多いですよね。

※日本では「ドレッド」で一般的に広く知られていますが、ドレッドという言葉は、dreadfulから来ており、その意味は「おどろおどろしい」というネガティブなものです。なので私たちは今後、黒人の方が一般的に使っている「ロックス」という呼び名を使います。また、ロックスヘアはアフリカ以外の土地の文化でも古くからあります

BTSと文化の盗用と黒人文化

ブラックヘアを私たちのような黒人ルーツではない人がやった場合、「文化の盗用」と指摘されることは避けられません。いつもこう書いた時点で、実際にブラックヘアをやっているブラックではない方や、ブラックヘアをしている非黒人アーティストのファンの方たちから猛反発が起きて炎上するのですが、丁寧に解説しますので、ぜひ最後までお読みください。

まず、そもそもブラックヘアの成り立ちについて知る必要があります。アフリカから奴隷として連れてこられた彼らは、最低限の生活と無給での労働を強いられます。入浴など自由にできない中、広がる髪の毛をまとめる手法として、縮れている髪の毛の性質を生かして編み込みました。編み込んでいくうちに、農園から逃げ出した時の地図を模様として忍ばせたりもしたそうです。また、非常食を髪の毛の中に蓄えて編み込んだりしたとも言われています。

このブラックヘアは、明日の命の保証もない奴隷として、彼らが生きていく中で生み出された、ある意味彼らの「生き様」が文化として発展したものであると言えます。

ですがそんなブラックヘアも、現代のアメリカ社会において、現在進行系でひどい差別に遭ってしまうんです。「プロフェッショナルじゃない」「汚い」などの理由で就職試験に落とされたり、学校の入学式に参加させてもらえなかったり、スポーツの公式試合に出場する代わりに審判にハサミで髪の毛を切り落とされたり、今もたくさんのブラックヘア差別のニュースが後をたちません。

髪の毛がふさわしくないとしてレスリングの試合前にハサミで切り落とされる青年

また、髪型差別が与える影響は、特に黒人女性を中心に負担がかかっています。例えば、白人社会の無言の圧力で、「ブラックヘアはプロフェッショナルではない」とされている場合、男性だったら坊主という選択をとるケースも多いですが、誰もが坊主になりたいわけではありませんよね?そこで、ウィッグを用意したり、縮毛矯正を定期的に行ったりするため、手間も時間もお金もかかります。また、一部の縮毛矯正剤は近年発がんリスクが増大することもわかっています。

さらには、その様な社会を目の当たりにして育った子供は自分のアイデンティティに自然と自信が持てなくなり、ストレートで明るい肌の方が優れているという暗示にかかってしまうことも実証されています。

下の動画は、自分を「ugly(醜い)」という4歳の子と、それを励ます女性です

有名なDoll Testでは、子どもの潜在意識の中に「ブラック = 悪」という誤った認識が根付いてしまっていることが証明されています。

欧米に限った話ではなく、日本でも多様化に対応できない学校側のくだらない規則でブラックルーツの子どもたちやその家族が苦しめられています。髪の毛が広がるため、抑えるべくブレイズヘアをしているのに、理解のない学校側から禁止されたりという話がよくあります。

以下の記事と、その件についての知人のツイートをご覧ください。日本では、学校や教師の不理解により、このようなケースが日本全国で起きており、子どもの心を深く傷つけています。

また、髪型にまつわる子供同士のいじめも存在します。親や学校に理解がないため、認識を正す機会がないのです。また、日本のメディアでは「ストレートヘア=美」「肌が白い=美」というような偏ったビューティースタンダードがあるために、自分の特徴を愛せずに自己肯定感が低くなってしまう心配もあります。

ブラックヘアは、彼らにとっては自分のルーツを示す誇らしく大切なものであると同時に、「ナチュラルヘア」でもあるのに、その髪型を理由に職務質問される例も少なくありません。ブラックのミックスである私の友人は、何万と人が行き交う東京駅構内で、警察官に職務質問のターゲットにされました。その時、警官は何の疑いもなく、「ドレッドヘアの人は薬物を持ってることが多いんですよ」というステレオタイプからくる偏見に満ちた発言を彼に浴びせました。ここ数年、このように外見的特徴で外国ルーツの方を職質するという事例が多発し、レイシャルプロファイリング※が疑われる事案として、後にアメリカ大使館も警告を出すほどの大きな問題になっています。

レイシャルプロファイリングとは、警察が、故意に、肌の色や民族、国籍、言語、または宗教などの属性を理由に捜査の対象とすることを言います。

以前レイシャルプロファイリングについてTEDxでスピーチをしました

ここに挙げたのはごく僅かな例に過ぎません。私たちJapan for Black LivesのSNSには、ブラックルーツの日本人の方から本当に多くの体験談が寄せられます。マイノリティに対する不理解が引き起こす不遇な状況が日常に多く存在していることがわかっています。

ブラックヘア さらに深堀り

話は「文化の盗用」に戻りますが、以上を踏まえて以下の例をイメージしてください。

アジア人の有名な歌手が、「HIPHOP大好き!」と言って髪の毛をコーンロウにし、ラップの曲を歌ったとします。作詞作曲、振り付け、バックダンサーなどに関わる黒人は一人もいません。HIPHOP大好きな割には、黒人文化や歴史についての理解が乏しく、そのため大勢いるファンに対しても、黒人文化へのリスペクトの気持ちが一切伝わってないとします。振り返れば2020年にブラックライブズマター(黒人の命も大切だ)運動が日本で盛んになった時も、なんと発言したらいいかよくわからなかったから、周りがやっているようにインスタに真っ黒の画像を投稿してハッシュタグつけただけであとはスルーしてやり過ごした、とします。

一方ファンからは「そのヘアスタイルカッコイイ!」「真似したい!」というコメントが大量に寄せられ、実際に真似する人もたくさん現れます。そのHIPHOPの曲もものすごく売れました。一通りその曲のプロモーションが終わったので、その歌手はイメチェンのためにエクステを外して地毛のストレートヘアに一夜で元通り。

・・・いかがでしょうか?実は日本やアジアでうんざりするほどありふれている例ですが、これは完全に「文化の盗用」と批判されても仕方ありません。以下、解説していきます。

まず、黒人文化を搾取してお金儲けをしているけれど、何一つ文化への理解やリスペクトや恩返しがないし、せっかく影響力というパワーがあるのに、それも正しい方向に使えていない。ファンに対して、黒人文化や歴史を伝えたり、一緒にサポートすることで「盗用」から「敬意」に変えるチャンスがあったのに、逃しています。

そして、前段落でブラックヘアにまつわる髪型差別や偏見の話をしました。そんな中、黒人ではない人がオシャレだからという理由でファッションとしてブラックヘアを身に纏ったらカッコイイ、まねしたい、と称賛を受け評価される。これこそ、最初の方で説明した「特権」です。髪型差別に遭う当事者を差し置いてコスプレのようにヘアスタイルを拝借し、飽きたらやめる。ブラックの方々にとっては髪も彼らのアイデンティティの一部ですし、差別されても一生共にしていくものです。

白人や、アジア系の人がブラックヘアをしているケースはとても多いです。それを目の当たりにした時、怒りや悲しみ、あるいは不快だと思う感情を抱く黒人の方は非常に多いです。
「ブラックルーツの友達いるけどあまり聞いたこと無いな」と思った方。実は彼らがそれを表に出すと、「いや大げさでしょ」とか「被害妄想じゃない?」というような特権的立場の意見により、声を押し込めてられてしまった過去があるのかもしれませんよ。
また、黒人の当事者でもこの髪型による差別の問題は特にアフリカ系アメリカ人に多いため、土地が変わると考え方も違ったりします。また、当事者でも特に自分に差別された経験がなかったり、文化の盗用についての理解がない場合は、「別に自分は困ってないけど」と思う人も多いです。そういう声が大きい場合、自分が傷ついていても声を上げにくいという現状があることは知ってほしいと思います。

この問題に限らず、様々な属性において、マイノリティの上げる声は、かき消されやすいので注意して声を聞くことが大事です。

「文化の盗用」問題においては、この「ブラックルーツではない方がブラックヘアをする」というのが一番メジャーなトピックです。理由は、ブラックヘアをしている非黒人の方が本当に多いし、黒人差別が続いているからです。私たちも何度もこの件についてディスカッションしてきました。

「ブラックカルチャーが大好きでリスペクトしてるからこそやってるのに」
「彼氏/旦那が黒人だけど、ヘアスタイルを褒めてくれたし、反対されてない」
「色んな文化の素晴らしいところをみんながシェアすればいいのに」
「盗用盗用って大げさ。日本文化もみんな真似してるじゃん」

上記の様なコメントはだいたい定番で必ず上がってきます。耳障りのいいもっともらしいコメントもたくさんあるのですが、当事者の気持ちが置き去りになってませんか?マジョリティ側である自分のエゴをマイノリティに押し付け、受け入れろと強要してませんか?下記、一つずつ解説していきます。

まず1つ目。「好き=リスペクト」ではないです。好きなら、その文化を深く知り理解するために勉強してこそ、その文化に敬意を払うことになるのではないでしょうか。また、その過程でブラックヘアについても深く知ることになると思います。それでも自分のやりたい気持ちを一番に優先させてブラックヘアを真似するのか、やっぱり敬意を払いたいからやめておこうとするのか、答えは自ずと出てくると思います。

2つ目、近しい人に当事者がいるからパス(許可証)を貰っていると思っている人は少なくありません。ですが文化の盗用は個人間の感情の問題ではないです。

繰り返しますが、文化の盗用とは、「支配的な(または特権的な)立場にあるグループが、マイノリティなど、そうでないグループの文化を搾取すること」です。その文化圏にいる人たちについて、考えなければなりません。

もちろん、日本人だってそうですが、黒人の方だって色んな考えの方がいるし、文化の盗用についてあまり深く気にしない人もいるでしょう。ですがこの問題は、差別を受けているマイノリティグループに対しての搾取という構図がある以上、必ず指摘される問題です。なぜなら多くの当事者の方はそれを良しとしないからです。そういう人たちの声に耳を傾けることこそが、BTSでいうところのSpeak Yourself(声を上げる)をした弱者に、耳を傾けることになります。

3つ目。その意見はマジョリティであるあなたの意見なので、まずはマイノリティの声を聞いて何が問題かを認識しなければならなくて、その問題が搾取構造の「文化の盗用」であるなら、シェアする前に搾取構造にならないように考える必要がありますよねという話です。「Toxic Positivity(トキシックポジティビティ)」という言葉がありますが、問題の本質を見ずに、「争いは辞めようよ」とか、「みんなが思いやって優しく説明すればきっとわかってくれるよ」、などと根拠のないポジティブさで意見や問題に蓋をする行為は、問題の解決になりません。ARMYの中でもBTSに関することなら全肯定するという人たちに見られるので、是非自分自身で考えるきっかけにしていただければなと思いました。

Cultural Appropriation(文化の盗用)と、Cultural Appreciation(文化への敬意)
NETFLIX 『ザ・ポリティシャン』

4つ目。もちろん、黒人文化の搾取以外の文化の盗用もあります。例えば日本文化を欧米に搾取される構図。
ですが日本人は白人文化への傾倒が強いので、日本国内からの意見は「日本文化を真似してくれて嬉しい〜可愛い〜」といった的はずれな感想が多く、「これって文化の盗用じゃない?」と声が上がるのは、アメリカの日系の方からなど・・・。そもそも日本には黒人の方々のような壮絶な迫害の歴史がないので、自国の文化に対しての誇りやプライドがあるにしても、黒人の方々のそれに比べるともしかしたら低いのかもしれないし、生活への密接度も違うので、声も上がりにくいのだと思います。日本で日本人として暮らしている時点で、マインドはマジョリティなので、「自分たちの文化が脅かされている、自分たちの存在がそのうち消されてしまうかも」みたいな危機感を抱くことはまずないでしょう。(この下に紹介する3つの記事の3つ目をお読みください。自分たちの存在が消されてしまうというマイノリティの思いがおわかりになると思います)

ただ、日本人による強い反発の例ももちろんあります。数年前、アメリカのセレブ、キム・カーダシアンが自身の補正下着ブランドの名前を「Kimono」にして商標登録をしようとした時、かつて見たこと無いほどの日本人による反発が起きました。これは、日本人が持つ着物への愛着と誇りが、文化の盗用の訴えにつながった例だと思います。結果、商標登録は取り消され、ブランド名も変更されました。

黒人はなぜ、文化の盗用にセンシティブなのか

私たちのSNSのコメント欄などでも、以下のような意見をたまに見かけます。

黒人以外の人たちがブラックカルチャーに感銘を受け、真似して広めたからこそ、さらに人気になったとも言えるのではないか。ポジティブな感情なのに、なぜ「盗用」などという強烈な言葉を使って問題にするのか。

実は、この疑問を抱くこと自体が、自身が特権側であることの象徴だと言えます。
黒人文化が世界中でもてはやされ真似されることにより、黒人差別はなくなったでしょうか彼らの地位向上に果たして貢献したでしょうか。そもそも、差別をしているのは誰でしょうか。また、制度や組織の中に組み込まれた差別的構造(システミックレイシズム)はなぜ改善されないのでしょうか。それを改善出来る権力のある人は誰でしょうか。

黒人差別は現在も社会構造の中に深く入り込んでいるために、マジョリティが想像すらしない苦労を抱えています。
さらに、アメリカでは、大げさではなく命に関わる差別と日常的に隣合わせています。警察による黒人殺害の事件や、過剰な取り締まりは、相手が白人だったら起き得ないような、取るに足らないことが原因だったりします。また冤罪も非常に多いです。

私たちはこの8分46秒を、目を背けず観なければならない

極論を言うと、黒人差別が改善されない間は、何をしてもフェアではないのです。

彼らが私たちよりも自分たちの文化に誇りとプライドを持ち、文化の盗用についてセンシティブなのは、文化こそが彼らが残してきた最大で唯一のものだからと言っても過言ではないです。アフリカ大陸での生活をある日突然やってきた白人に奪われ、家を奪われ、家族を奪われ、もともとあった文化を奪われ、名前を奪われ、人権を奪われ、奴隷船で物のように扱われ、船の中でも多くの仲間の命を失い、アメリカでは労働力として奴隷市場で物のように売り飛ばされる、そんな中、自分たちを励ますために歌を作って歌い、踊りを作って踊る。彼らの文化には鎮魂の意味もあります。その文化だけを代々拠り所とし受け継いできたことを考えると、ブラックカルチャーに対する思い入れも伝わるのではないでしょうか。

Beats by dreのコマーシャル「ブラックカルチャーを愛していても黒人を愛しているか?」
Buddy – Black 2
曲のフックでは「Everybody wanna be black, don’t nobody wanna be a ni***, uh」
(みんな”ブラック”に憧れているけど、実際に黒人にはなりたくない)という歌詞があります。

後編ではBTSのJ-hopeによるソロ曲「Chicken Noodle Soup」を例に、文化の盗用についてさらに解説を進めていきます。こちらから是非お読みください!


Japan for Black Livesについて

わたしたちは、日本国内にある黒人差別の現状を、日本にいる多くの人に認識してもらうべく発信しています。差別問題はまず現状を知ることから始まります。そして学び、当事者の声を聞いて共感し、共に声を上げ、改善するアクションを起こし、ともに世の中を変えていきましょう。メンバーは こちら。お問い合わせや講演などのご依頼はメールでお願いします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です